コンボムービーの歴史

格闘ゲームやらの連続技 (コンボ) をまとめた動画、コンボムービー。その歴史を追った。


■本文要約

ビデオテープに録画され、少人数の間で流通していたコンボムービーは、

MAD動画文化との合流、手軽にコンボを組めるゲームの登場、インターネットの普及により、

楽しむ人口が増加したが、問題点も浮上している。


■コンボムービーの歴史

1.コンボ黎明期、コンボムービーの誕生

2.コンボビデオ (コンボCD、コンボDVD) の流通

3.MAD動画文化との合流

4.コンボ人口の増加 (コンボしやすいゲームとインターネットの普及)

5.現在のコンボムービーを取り巻く環境

6.問題点


1.コンボ黎明期、コンボムービーの誕生

コンボに熱中する人は、スト2の頃からいた。

SFCスト2発売後のゲーム雑誌には、読者投稿のコンボを載せる連載ページもあった。

ここには格闘ゲーム以前のアクションゲームのコンボが (敵キャラの反撃を受けずに圧殺するパターン含め) 関係するはずだが割愛。


インターネットが無かった当時にも、VHS (ビデオテープ) によって映像付きでゲームの情報は広まっていた。

企業が許諾を得て公式に発売する攻略ビデオや、個人がプレイ映像を録画したビデオテープが存在。

それらビデオ (or ビデオ内の1コーナー) の中には、収録内容をコンボに絞ったものもあった。

初めてのコンボムービーはその中にあったと言える。


記録が残る最古のコンボムービー誕生は、1992年9月。

サイトロンレーベル制作の攻略ビデオ 『ストリートファイター?ダッシュ 〜究極奥技編〜』 に収録の、

「華麗なる必殺連続技編」 がそれだ。

ゲーメストビデオ ストリートファイター?ダッシュ 〜究極奥技編〜


分類としては威力重視のコンボムービー。

目押しコンボ、起き上がり重ね始動コンボが既に取り入れられている。別コーナーにはキャラ限定バグコンボもある。

技名表記はコンボレシピ記載の元祖と言えそう。


(1991年発売の攻略ビデオ 『ストリートファイターII 〜場外乱闘編〜』 では、

コンボは 「スーパーテクニック」 として紹介されている。2000点空中投げなどと同列。

「コンボ」 という認識が浸透していなかった様子が分かる)


コンボを楽しむ人たちを増やしたのは、TZW-ARTさん制作のビデオの影響も大きい。

(コンボ自体がそう研究されていなかった時期から、コンボ関連のハイレベルなビデオ&同人誌を頒布していた)


2.コンボビデオ (コンボCD、コンボDVD) の流通

ビデオテープでやり取りされるゲーム映像は、企業が許諾を得て公式に発売した攻略ビデオが主流だった。

しかし次第に、個人のプレイ映像 (ハイスコアアタック、タイムアタックなど) がビデオで頒布され始め、

格闘ゲームが流行りだすと、コンボに特化した内容のビデオが増加した。


ビデオテープを媒体にコンボムービーはやり取りされていたので、

コンボに特化した内容のビデオには、いつの間にかコンボビデオという呼び名が定着した。同人コンボビデオの誕生である。


この文化は頒布媒体をCD、DVDと替えて、

動画公開のメインストリームが動画共有サイトに代わるまで続いた (1991頃?〜2010頃?) 。

今でも稀に、同人誌即売会で自作のコンボビデオ・コンボDVDを頒布しているサークルも見受けられる。


同人コンボビデオについて。

・頒布場所は、主に同人誌即売会やゲーム大会会場。

・価格帯は500円〜2000円ほど。

・収録時間は20分〜1時間30分ほど。

・収録内容は、よく練り込まれたコンボ、全キャラクターのコンボを収めたものが多い。

・本編 (コンボ) の後に、バグ集や大道芸プレイ集が収録されているケースもある。

・コンボの終わりを示すため、1コンボごとに毎回挑発をするなどの風習も。

・編集は今ほど簡単ではなかったが、それでもオープニングや音声やBGMのアフレコ、スタッフロール付きのビデオが大半。

・ビデオの場合は大量生産は難しく、頒布数が限られた。


同人コンボビデオの一例。

『皆伝 悪・即・斬』01:オープニング〜リムルル連続技【天草降臨】


3.MAD動画文化との合流

既存の音声や映像を個人が編集して再構成した "MADテープ" "MADムービー" と呼ばれる映像文化がある。

格闘ゲームより古くから存在するこの文化は、コンボムービーにもいつしか流れ込んだ。


いつ頃に合流したかは不明だが、少なくとも1996年時点では合流していた。

前述のTZW-ARTさんが既に、アニメ 『神秘の世界 エルハザード』 のOPテーマを使ったビデオを作っている。

TZWのスト2ビデオ


この動画自体は、同時に頒布された解説同人誌がないと分かりづらい (特に1:42〜4:37)


2014年現在、MAD文化の人気もあってか、編集に力の入ったコンボムービーも多い。

「見やすいよう加工する」 「コンボの切り替わりでステージBGMがぶつ切りにならないようにする」 などの編集に留まらず、

元のゲームとは無関係な楽曲をBGMとするコンボムービーが増え、

更には、楽曲と併せて完成となる (歌詞にキャラの動きを合わせているなど) コンボムービーなど、MAD動画側に近い動画も誕生した

演出の結果は様々だが、どのコンボムービーも演出目的は 「 (制作者的に見て) そちらの方が格好良いから・面白いから」 など魅力を増すため。


「そちらの方が格好良いから」 との理由を最も納得してもらえそうなコンボムービー。

SF? Ryu Exhibition (Evo2k9+OHN8 Edition)


4.コンボ人口の増加 (コンボしやすいゲームとインターネットの普及)

格闘ゲームの楽しみ方の中でもマイナーだったコンボだが、2000年頃を境に楽しむ人口が急激に増加する。

その理由は主に2つ。

「コンボを楽しみやすいゲームの誕生」 と 「インターネットの普及」 だ。


・「コンボを楽しみやすいゲームの誕生」

口火を切ったのは、KOF2000とGGX。


延々とコンボの繋がるゲームが増え始めた時期だが、当時としてはこれらが別格。

いくつかの要素 (ストライカー数/超必ゲージ/受身可否/ガードゲージなど) に目をつぶれば、

即死コンボ! ヒット数は数十ヒット! 十数秒間も相手を拘束! と、派手なコンボを誰もが作れた。


このため過去のゲームのコンボ (見た目が地味、繋げることすら難しい、誰がやっても似たようなコンボ (※1) ) と一線を画し、

コンボ作りのハードルが下がったため (※2) 、コンボムービー普及の一因となった。


※1:1990年代のゲームでも、近年のゲームに目劣りしない個性的なコンボを作れるものは多い。

しかしその多くが発見されたのは後年のこと。


※2:念のため書けば 「派手なコンボを作りやすいゲームが増えた」 というだけの意味。

「奥が浅いコンボのゲームが増えた」 という含意はない。


・ 「インターネットの普及」

インターネットの普及により、コンボムービーのやり取りが容易になった。


コンボビデオ入手にかかる手間がなくなったため、

(ビデオテープなどの物理的な媒体が必須、交通費・送料などの金銭が要る、イベント会場限定頒布など時間・場所の制限)

コンボムービーを知らなかった人、知っていても手間がかかるため見なかった人の内から、視聴する人が現れた。


今より多くの手順を踏む必要があったが、それでもコンボムービーを公開する好事家は数知れず、

多くの動画がやり取りされ、コンボを楽しむ人口を増やした。

(手順の例:

・当時は今ほど必須でもなかったネット環境を導入

・キャプチャーソフトや動画編集ソフトは有償 (フリーのソフトはまだない)

・コンボムービーのアップロードのため、レンタルスペースにWebサイトを開設

・Webサイトには最低限程度でもHTML知識が必要

・アップロード後はWebサイトの空き容量不足が切実な問題

・再UP依頼や圧縮ファイルを解凍する方法の質問に、サイト掲示板で応える)


当時のコンボムービーについて。

・サイト容量の都合で、一度に公開しておけるコンボムービーは数本〜十数本が限界

・ゲームと関係ないBGMをあてる動画では、「Rhapsody OF FIRE」 の楽曲が流行

・今ほど動画編集ソフトも高性能ではなく、動画編集経験のある人も少なかったため、凝った編集を施された動画は少なかった

・というか1コンボ1ファイルで公開するのが主流

・コンボビデオを頒布するサークルは、Webサイトでは予告編の動画を公開して、完成版のコンボはコンボビデオでお披露目する例が多かった


5.現在のコンボムービーを取り巻く環境

2014年現在、コンボムービーは誰でも簡単に公開・視聴を楽しめる。


インターネットはもはや必須インフラと言えるほど普及。

動画共有サイトYouTubeニコニコ動画など) が一般化。

PCは高性能化 & 大容量化。コンボムービーや収録した動画のファイルサイズを気にする生活にさよなら。

キャプチャーソフト・動画編集ソフトは高性能化し、無料で使えるソフトが登場 (アマレコTV、Windowsムービーメーカー、Aviutl) 。

コンボをスマフォで撮影→アップロードも可能。


格闘ゲーム動画の歴史的には、「ゲーム動画あぷろだ@hameko.net」 も欠かせない。

鉄拳シリーズなどで有名なハメコ。さんによるアップローダー。

2005年3月〜2006年2月の短期間に運営されたアップローダーながら、連日多数のゲーム動画 (コンボムービー含) が投稿された。

動画共有サイト以前に、手間をかけずアップロードできる環境があったことは大きい。

個人サイトから動画共有サイトの一般化までの隙間を埋めるサイトだった。


6.問題点

少しずつ人口を増やしてきたコンボムービーだが、問題点も浮上している。


・ 「著作権問題」

同人コンボビデオとして頒布されていた頃からの問題。

かつては黙認されたり、そもそも権利者の目に留まらなかったため、

頒布停止/動画の削除/著作権料の支払いなどを求められる例は滅多に無かった。

しかし、ゲームタイトルで検索しただけで検索結果にコンボムービーが含まれる例もあるほどアクセスしやすくなり、

誰でもコンボムービーを見られるようになったため、無配慮ではいられない事として浮上してきた。


ゲーム映像の投稿に対して権利者がアクションを起こした例では、示談金支払いに至った件が有名。

プレイ動画投稿は示談金支払いで決着 「徹底抗戦」したゲームメーカー

過去には、ゲーム画像の公開で逮捕につながった事例もある。

「gameonline」運営者がゲーム画像の無断公開で逮捕


特に音楽は、著作権侵害に対して厳しい。

BGMにJ-POP曲を当てたコンボムービーでは権利者削除の例がある。

グラップラー刃牙〜バキ最強列伝〜 コンボムービー

「この動画は株式会社エピックレコードジャパンの申立により、レコード製作者の権利侵害として削除されました。

対象物: JAP_audio file」

YouTubeでは、コンボムービーに使われたBGMのために、特定の国では動画を再生できないなどの措置が取られることも。

ゲームと無関係なBGMを合わせるコンボムービーは、(プレイ動画公開自体が著作権法に抵触しているが) 冬の時代に向かいつつある。


ただし2014年4月現在、ゲーム映像・ゲーム音楽に対してはそこまで厳しくない。

プレイ映像をネット上にアップロードする機能がゲーム機に盛り込まれていたりさえするほど。

ネットワーク - PlayStation.com


更にはメーカーが公式に、プレイ動画公開のガイドラインを設定する例さえある。

(例:

ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ

「動画掲載サイト (中略) でのストーリーネタバレ動画公開の自粛を (中略) お願いいたします。」

とあり、対戦動画やコンボムービーの公開自粛は触れられていない。

(もちろん 「言及が無いだけ」 であり、コンボムービーの公開を許可するものではないが)


ストリートファイターEX』 シリーズや 『ファイティングレイヤー』 のアリカによる、ニコニコ動画対策委員会

ニコニコ動画にゲーム動画を投稿する上でのルールを提示。

「以上のルールをご了解の上で、お約束いただける場合に限り

ニコニコ動画上でのゲーム動画公開をファン活動として開放します。」 と大盤振る舞い。)


特殊な例では、ゲーム制作会社のスタッフが ブログやTwitterでコンボムービーなどを紹介することも。

4月1日なので、それらしい話題でも - ホッパーの日記


・ 「想定外の反応」

かつてコンボムービーを楽しむのは、一部のゲームマニアだけだった。

(連続技に興味のあるプレイヤー、MAD的な演出を目当てとしたプレイヤーなど) 。

しかしコンボムービーの一般化が進み、様々な層が視聴するようになると、制作者の予期しない目的で視聴されるケースも現れてきた。


発売から間もない格闘ゲームのコンボムービーが公開されることもあり、

(本気度合は読み取れないが) ゲームの購入判断の一要素として視聴するような人も。

これはまだしも、中にはゲームの出来が悪いことの証左のように動画を扱う例も出て来た。


例を挙げればこちら。

ジョジョASB ファニー・ヴァレンタイン 永久コンボ


たとえばこの動画、中身はしょぼいが26万再生している。

ニコニコ動画での格闘ゲームのコンボ関連の動画は 10万再生に達することさえ珍しいが、炎上によりこうなった。

動画のゲームをクソゲーとして叩く炎上が動画に波及して (この動画も炎上の一要素となって)、

コンボに対するコメントではなく、ゲーム自体や制作会社を揶揄するコメントが多々残された。

(なお、動画の永久コンボは発売日から十数日後のアップデートにて修正済み)

このように、公開したプレイヤーの意図がどうあれ、好ましくない盛り上がり方をするケースも出て来た。


このような反応を受けた動画を見ての感想は 人それぞれ千差万別だろうが、

一般的に考えて、動画を公開したプレイヤーや視聴者に (悲観的に見れば開発スタッフにも) 、

ゲームに対して (何とも思われなかったり負の感情を与えるケースがあっても) ポジティブなイメージを与えるとは少し考えにくい。


格闘ゲーム動画がゲームの炎上の一要素になる可能性は、

「ゲームの注目度 × クソゲーっぽく見える度 × 実戦投入可能っぽく見える度」

の式でおよそ求められる。

コンボムービーにおけるコンボは、即死コンボやバグ利用コンボなど 練り込まれるほどゲームをクソゲーのように見せがちのため、

ゲームに対するネガティブなコメントが付きやすい。


終わり。