・1990年代後半にヤングチャンピオンで連載されていたマンガ 『監察医SAYOKO』。
傑作推理マンガ 『怪奇探偵・写楽炎』 の作者である根本尚先生が推薦していたので読んでみた。
『怪奇探偵・写楽炎』 シリーズを知らない方は検索されたし。
空前絶後のトリック第4巻表題作 【羽衣の鬼女】 や、こういうのを待っていた第3巻表題作 【蝋太郎】 がオススメ。
『監察医SAYOKO』 のジャンルは、基本1話完結のサイコサスペンス漫画。
連載時期は 『科捜研の女』 の放送開始よりも早いとか。
監察医・七浦小夜子が死体の検死や解剖とプロファイリングを武器に、犯人に“立ち向かう”ストーリー。
“立ち向かう”というのは誇張じゃなくて、マジで現場に出て犯人と物理的接触をする話が大半だ。
不可抗力で犯人と接触する話もあるけど、自ら雪山とか沈没船にも赴く。
(不可抗力の場合では、連続殺人犯と地下鉄に閉じ込められたり、カルト教団に狙われたり、時限爆弾を解除したりする)
感想。
読む前に期待してたジャンルはミステリーであり、トリックや謎解きを楽しみにしていたが、そうでない話が多かった。
公式が宣言する "サイコサスペンス" で正しいジャンルなのだろう。
クローズド・サークルでの連続殺人に巻き込まれる話もあるが、『ゴルゴ13』 ばりのアクション一辺倒の話もある。
読者も考えれば途中で真相に辿り着きうる 『金田一少年の事件簿』 や 『名探偵コナン』 のような漫画ではない。
そういう推理漫画としての謎解きではないが、作中で提示された謎が解明される様は面白かったりした。
2011年の実写ドラマ化に際してのエピソードにも採用されたという4巻収録 【遠い殺意】 は、たしかに一読の価値ある内容だ。
だけど最も強く感じたのは……漫画自体の出来とは別に、ジェネレーションギャップが凄いな。
20年以上前の青年誌作品だけあって、ジェネレーションギャップが凄まじいからクラクラしちゃう。
とにかく平気で人が死ぬ。
警察は躊躇なく犯人を射殺するし、都心の警察署がテロリストに襲撃され数十人の死傷者を出したりする。
もしも2022年現在で現実に発生した事件だったら、ワイドショーをひと月以上は賑わせるだろう猟奇的殺人のオンパレードだ。
命の軽さはレギュラーキャラにも容赦なくて、最後まで登場しそうな準主役が思わぬ結末に辿り着いたりする。
作品全体通しての宿敵になるのだろうと予感したキャラが、呆気なく死んだりする。
「キャラクタービジネス」 という概念が、ごくわずかな作品以外では意識されなかったろう当時の空気を感じさせる。
何と言ったって、作中でのインターネットに関する記述が次の通りだ。
試算では日本の将来の
インターネット加入者は
330万人を越え
これを利用した犯罪も
今後 大幅に増加すると
見られている
インターネット加入者が330万人って少なすぎる! 1990年代の週刊少年ジャンプ最大発行部数653万部の半分程度だぞ。
いかに昔か実感する。
そして絵・作画も1990年代の漫画だな、って感じが半端ないよ。
デジタル化の恩恵もあるのだろう、2022年現在どの雑誌のどのような漫画でも大抵は絵が巧みだ。
でもこの漫画は、アイビスペイントやクリスタどころか、インターネットやパソコンさえ一般的でなかった時代の作。
「昔の青年誌って話が面白ければビックリするくらい絵が崩れてたりする漫画が載ってたっけなあ」 と懐かしくなった。
話を追うのに支障があるような作画さえあったりする。
「この2人は同一人物なの?」 とか、「この犯人って前に出てきたおっさんとそっくりだけど理由あるの?」 とか。
特に、コマとコマとの間での時間経過が分かりづらいことがたまにあり、読みづらかった。
現代の漫画って、昔の漫画の様々な長所を取り入れ短所を改善しての積み重ねで成り立っているのだなあ、と実感した。
冒頭で挙げた 『怪奇探偵・写楽炎』 シリーズのファンの人は、別の意味で読んでみると面白い漫画かも。
というのは、『怪奇探偵・写楽炎』 シリーズは 『監察医SAYOKO』 の影響を受けているのだな、と何となく分かるので。
主人公の雰囲気や、付き従う刑事を 「刑事くん」 と呼ぶ点、
凄い動機の犯人や、登場人物の名前をどう扱うかなどに影響を感じた。
そういうわけで、『監察医SAYOKO』 は 『怪奇探偵・写楽炎』 シリーズのファンならオススメです。
【遠い殺意】 収録の4巻を読んで、気に入ったら1巻から読むのが良いかも。
登場人物の登場・退場的にはちょっと推奨できませんが……
『怪奇探偵・写楽炎』 を未読の方は、【羽衣の鬼女】 を読んでみるのがオススメ。